河野道代詩集『思惟とあらわれ』内容紹介

河野道代の『思惟とあらわれ』が、2022年7月、panta rhei から刊行された。『spira mirabilis』『花(静止しつつある夢の組織』『花・蒸気・隔たり』に続く新詩集の題名は、著者自身の言語行為に対するひとつの名づけでもあるだろう。物質と言語の間における思考の転位が、その詩的存在論の構造であり対象だからである。

この詩集に収められた詩篇は、現代美術の最先端におけるさまざまなオブジェのあり方を詩的考察の契機としている。物の言葉を聴き取った制作者の思考が物質化されたそれらに、リズムや韻や整えられた諧調によって位相の転位を与えること──その新しくひらかれた次元に、言語によって構築され、異なる光に照らされたさらなるオブジェの姿を表す試みである。

新詩集『思惟とあらわれ』のコペルニクス的転回とは、言語に思考のまわりをめぐらせることなく、思考が言語のまわりをめぐるようにしたことである。さらに驚くべきは、言語にオブジェのまわりをめぐらせることなく、オブジェが言語のまわりをめぐるようにしたことである。

『思惟とあらわれ』で起こるのは「物」の声を聴き留めようとする詩的転位を、もう一度「物」の思考へと反転させる哲学的転位である。二つの転位が、ここでは往還的に、また同時的に惹き起こされている。

§ 菊判変形/80ページ/函入り/上製本 定価3900円+税