河野道代詩集『花・蒸気・隔たり』評

河野道代の作品は、“真”の芸術あるいは詩と呼ばれる営みが〈何である〉のかということを、またそれはどのような仕方で存在せ〈ねばならない〉のかということを、その詩的な形式と言葉の物質的な効果を透かしてときに暗示してしまう、そのような稀有の出来事、比類なきものの印象を刻印する出来事としてあり続けてきた。──三松幸雄

「たとえていえば水面のさざ波の美しさ、金属の表面のかがやきを詠じるのでなく、液体内部、固体内部の質感に詩を受けとり言葉にしようとされる。さざ波の美の流儀は近代詩、現代詩で使いつくされて、ひとはそれになじんできたが、この詩集は、これまでとは別種の詩の科学が未知の詩情の出現を感じさせる。──富岡多恵子(読売新聞 2010年2月1日)

これらの明澄な「記述」と先 – 言語的な「直観」とのあいだを往き来する詩篇群は、「現象」と「存在」のあいだで「揺れ動く」事象を解析しようとする芸術の形而上学的な実践であり、「在る」ものとその「境界」をめぐる問いに導かれつつ言葉と形象を書き継いでいく存在論的な詩作の試みである。そこには、若林奮の探究とのあいだで、「虚空」をはさんでずれながら「共振」しあう感覚と思考の配分があり、変化しつつある線やモティーフのさまざまな配置がある。──三松幸雄「封じられて、永遠に」『言語と美術──平出隆と美術家たち』2018年 DIC川村記念美術館

見事な造本、そして、鋭い結晶としての言葉のきらめきに魅せられます。──加納光於

私にはとても哲学的な詩に思えました。一つ一つの言葉が美しい。しきりに感心しています。──澁澤龍子

遠くから I.W が贈ってくれたような、風をはらんだ、いい詩篇ばかり。私はとくに「泳ぐ犬」が好き。──酒井忠康